調理の工程でリハビリに役立つ動きとは|料理・調理の工夫

調理の工程でリハビリに役立つ動きとは

リハビリ監修:作業療法士 廣瀬哲司先生/理学療法士 杉浦将太先生

料理をするなかで、実際にどのような動きがリハビリに役立つのか、その際どのような点に気をつければよいかなど、ご自宅で料理をしながらリハビリを行うためのポイントをご紹介します。
 
キッチンに立って料理をするのは、1日に欠かせない3食のうち1食だけでもいいですし、1週間に1回でも構いません。安全面にも十分配慮しながら、自分のペースで無理なく楽しく料理を続けていきましょう。少しずつの積み重ねが運動機能の維持につながります。

1.材料を混ぜる作業を行うときはダイナミックな動きを意識する

材料を混ぜる作業を行うときはダイナミックな動きを意識する

材料を混ぜる作業を行うときは、手首だけで混ぜようとすると小さな動きになりがちです。手首から肘までのラインをまっすぐに固定したまま、大きく円を描くようなイメージで肩を動かすようにして混ぜると、大きな動きが引き出され、リハビリにも役立ちます。腕を開いたり閉じたりする動作に合わせて、背中の筋肉の動きも意識しましょう。
 
なお、大きな動きを伴う作業は、肩幅かそれよりも少し広めに足を開くと、安定した姿勢で行うことができます。

2.調理中は左右の手を均等に使い動作が片方に偏らないように

調理中は左右の手を均等に使い動作が片方に偏らないように

材料を混ぜたり炒めたりするときは、できるだけ「左右の手」を交互に使うようにしましょう。作業しやすい方の手ばかりを使いがちになりますが、一方の手だけで長時間作業を続けると、片側に体が傾きやすくなり、姿勢が崩れる原因となります。片方だけに動作が偏らないように、一方の手で作業をしたら、反対の手でも作業することを心がけましょう。

ポイントは左右の筋肉を均等に動かすように意識することです。数を数えながら作業したり、タイマーをセットしたりして、左右の手を替えるタイミングをつくるとよいでしょう。
 
ただし、一方の手が特に震えて作業が行いにくい場合などは、片手だけで行っても構いません。その場合はこまめに休憩を入れて、姿勢を正すようにしましょう。

3.調理工程の合間はいったん手を止めて意識的に姿勢を正すタイミングを

調理工程の合間はいったん手を止めて意識的に姿勢を正すタイミングを

調理工程の合間には、いったん手を止めて、腰を伸ばしたり肩甲骨を動かしたりしましょう。
 
同じ動作が続くときも、意識的に姿勢を正すタイミングをつくるようにします。たとえば5分ごとにタイマーが鳴るようにセットしておき、それを止めるたびに体を伸ばして姿勢を整えると決めておくと、調理に集中していても忘れることなく体勢をリセットすることができます。
 
煮込んだり焼いたりしている間の待ち時間も、運動をするチャンスです。体調に合わせて休憩を取りつつも、積極的に体を動かす時間を持ちましょう。

なお、調理時間をはかるタイマーや調理工程を確認するレシピ本などは、普段の目線の高さか、それより10cm程度上あたりに設置しておくと、使うたびに自然と体が起き上がります。

4.調理器具や食器の出し入れは何度かに分ければ動く回数も増えてリハビリに

調理器具や食器の出し入れは何度かに分ければ動く回数も増えてリハビリに

調理器具や食器を出し入れしたり運んだりする動きも、体にとってはよい運動になります。運動量を増やしたいときは、調理器具や食器を洗って拭いたらいったんテーブルの上に置き、そこから棚の中にしまうなど、動作の工程を増やすとよいでしょう。
 
調理器具や食器を運ぶときは、安全性の面からも一度にいくつも持つのではなく、一つずつ出したり片付けたりするようにしましょう。動く回数を増やすことにもつながります。
 
調理道具や食器の収納場所は、体の状態に合わせて定期的に変えていくとよいでしょう。調子の良いときは、少し頑張って動くと届く場所に置いておき、それが難しくなってきたら、近くや低めの場所など手の届きやすいところに移動させます。ご家族などとも話し合いながら、症状や体力に合わせて入れ替えるようにしてください。

5.ときには全身を使う動作を伴う料理に挑戦 してみる

ときには全身を使う動作を伴う料理に挑戦 してみる

時間のあるときはご家族や介助の方などと一緒に、全身を使った運動を含む料理に取り組んでみるのもおすすめです。例えば、パン作りやそば打ちに挑戦してみるのはいかがでしょうか。
 
生地を両手でこねたり、麺棒で前後左右に大きくのばしたりする作業には、普段の調理の動作では使うことが少ない全身のさまざまな筋肉の動きを伴います。肩や肩甲骨を動かしたり、腕や胸の筋肉を使ったりといった上半身の動きはもちろんのこと、膝を曲げ伸ばしすることで太ももの筋肉も刺激されるため、下半身の運動にもなります。使っている筋肉を意識しながら行いましょう。
 
音楽をかけながらテンポよく行うと動きやすく、さらに楽しく作業をすることができます。

6.前向きな気持ちは精神的なリハビリに

前向きな気持ちは精神的なリハビリに

パーキンソン病患者さんのなかには、病気になったことで全てを失ったように感じている方もたくさんいらっしゃいます。そのようななかで、今までやってきたことを維持したり、新たなことにチャレンジしたりすることは、生活の質によい影響を与え前向きな気持ちにつながり、精神的なリハビリにもなります。
 
さらに「病気になる前にできていたことが、またできた」という体験は、今の自分にできることに目を向け尊厳を回復していくことにもつながります。料理に取り組むことを、そのきっかけの一つとして、活用していただければと思います。

7.パーキンソン病患者さんのご家族・介助を行う方へ

パーキンソン病患者さんのご家族・介護を行う方へ

患者さんが料理をしている間は、なるべくそばで見守るようにしてください。作業に夢中になるあまり、無理な姿勢を続けてしまう患者さんもいます。長時間同じ動きを続けているときは、適度なタイミングで休憩を取ったり、体を動かして姿勢を整えたりできるよう積極的に声をかけましょう。
 
また、サポートが必要な場合は手を差し伸べることも大切です。患者さんが材料を混ぜていたらボウルを押さえてあげるなど、安全に調理ができるよう手助けしましょう。パーキンソン病の患者さんだからといって、気を張る必要はありません。大切なのは、目の前にいる人が困っているときに声をかけたりサポートしたりしようとする気持ちです。
 
「調理中に転倒が続いた場合はやり方の変更を検討する」など、無理なく安全に料理をするためのルールを家庭内で決めておくこともおすすめです。手段にこだわらず、患者さんに合ったやり方を工夫して、無理なく楽しく安全に、料理を続けていきましょう。

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